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きのくに
音楽

2022/11/11

晩秋のヴァレリー・アファナシエフ [特別寄稿:青澤隆明]

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 ヴァレリー・アファナシエフは、ずいぶんと難しい顔をしている。ステージ上では、かなりの渋面が多く、気難しそうにみえる。実際、彼のピアノ演奏は容赦がない。

 強い思索のうちに、憂いや嘆きの表情が入り込んでくるのは、いたしかたないことだ。というのも、ヨーロッパ芸術の黄昏を自身が孤独に生きていることを、アファナシエフは深く自覚しているからである。旧ソヴィエト連邦の、首都モスクワのインテリゲンチャとして、そして亡命後はヨーロッパの教養人としての誇りを高く抱いて生きてきた者としては、当然の矜持ともいえる。

 ピアニストとしてのアファナシエフは、モスクワ音楽院のエリートで、ソヴィエト時代の巨匠たちを身近に聴き、とりわけエミール・ギレリスという極めつけの名匠の愛弟子として育った。ブリュッセルのエリーザベト王妃コンクールで優勝したのがいまからちょうど50年前の1972年で、74年にはベルギーに亡命。その数年後にフランスのヴェルサイユに移住したが、いまはまたブリュッセル郊外でゆったりと暮らし、思索や執筆にいそしんでいる。

 敬愛してやまない音楽とともに生きるアファナシエフは、誇り高いだけでなく、きわめて純粋な人間だ。作品の内面に入り込む思考と感情、そして演奏の強度には凄まじいものがある。彼のピアノの深く豊饒な響きを聴くだけで、誰しも強く感情を揺さぶられるはずだ。

 しかも、シューベルトとブラームスは、アファナシエフが長年の愛着を示し、多くの詩やエッセイを寄せてきた作曲家でもある。シューベルトが最期の年に書いたピアノ曲も彼の愛奏曲だし、シューベルトとブラームスのデュオ・ソナタは、同時代を生き抜いたソ連出身の偉才ギドン・クレーメルとのレコーディングでも名高いレパートリーだ。

 ヴァイオリニストの堀米ゆず子が、いかに芯の通った、豊かな奥行きをもつ音楽家であるかは、和歌山の音楽愛好家のみなさんはよくご存知だろう。エリーザベト王妃コンクールに優勝して、世界的に活躍を広げていた1980年代半ばに、クレーメルが主宰するロッケンハウス音楽祭でアファナシエフと出会ったという。しかし、ふたりがデュオを組むのは、今回が初めての機会となる。

 出会いから三十数年の歳月のうちにも、それぞれに成熟は満ち、アファナシエフにしてみれば、さらに自由な表現へと向かうようになってきた時節での再会だ。ゆかりの街ブリュッセルでの対話を経て、こうしてともに愛する日本、その最深部ともいえる和歌山で、シューベルトとブラームスを共演するのはふたりにとって、そしてもちろん聴き手にとって、かけがえのない音楽の時間となるに違いない。

 

青澤氏による2021年11月のインタビュー(ソニーミュージック オフィシャルサイトより)】
「来日中のアファナシエフが、3年がかりのプロジェクト「TIME」について、大いに語る!」

【きのくに国際コンサート・シリーズ第2弾】
「堀米ゆず子×ヴァレリー・アファナシエフ」
2022年11月25日(金) 19:00開演
@和歌山城ホール 小ホール

この記事を書いた人
青澤隆明(音楽評論) ■東京外国語大学英米語学科卒。高校在学中からクラシックを中心に音楽専門誌に執筆。エッセイ、評論、インタビューを、新聞、一般誌、演奏会プログラムやCDなどに寄稿。放送番組の構成・出演のほか、コンサートの企画制作も多く手がける。著書『現代のピアニスト30-アリアと変奏』(2013、ちくま新書)でもアファナシエフを論じている。アファナシエフの語り下ろし著作『ピアニストは語る』(2016、講談社現代新書)では当人の要望により、きき手と構成を担った。

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